大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)221号 判決

右事実に≪証拠≫を併せ考えれば、控訴人は、昭和四九年三月二五日稲田外一名を連帯保証人とし、三東及び訴外株式会社ナカスに対し両会社を連帯債務者として五〇〇万円を貸し付けたが、その直前である同月二〇日川上進四郎は、その小松建設工業に対するビル建築工事斡旋手数料債権五〇〇万円を三東の右借用金債務を担保するため前もって控訴人に譲渡し、同日小松建設工業に右債権譲渡通知を発し、その頃右通知は小松建設工業に到達したこと、小松建設工業は上場会社であって支払能力を有し、当時川上の同会社に対する右債権の存在を認めていたこと、三東の代表取締役ではないが事実上の経営者である稲田は、同年一二月三日頃訴外会社の常務取締役である被控訴人通宏に対し、三東において控訴人より五〇〇万円の借用金債務があり、控訴人よりその担保として第三者振出の同額の約束手形の差入れを要求されているが、稲田は小松建設工業に対し五〇〇万円の債権があり、これを控訴人に対し担保に供していて、小松建設工業が同月二〇日その支払をすることにより三東の控訴人に対する右債務は決済される予定であるので、訴外会社に迷惑を掛けることはないから、訴外会社振出の五〇〇万円の手形を貸してほしい旨懇願したこと、同被控訴人はその父であり訴外会社の代表取締役である被控訴人千秋から同社の業務執行の一切を任され、手形振出についても訴外会社代表取締役山県千秋名義でこれをなす権限を与えられていたところ、一旦は稲田からの右依頼を断ったが、稲田の再度のたっての要望があったので、その言うことを信じてこれを容れ、同月三日頃控訴人主張の(1)、(3)の手形を三東宛振り出し交付したこと、しかるに三東は、同月五日控訴人から右手形二通の割引を受けてこれを控訴人に裏書譲渡したこと、その際、控訴人は右手形振出に至る事情は知らなかったこと、前記同月二〇日に小松建設工業の支払はなく、右(3)の手形の満期直前被控訴人通宏は、右(3)の手形の支払延期方を控訴人に求め、その書換手形として控訴人主張の(2)の手形をその満期までの利息三万円弱を支払って控訴人宛に振り出し交付したこと(当時稲田はすでに所在不明であったため右(2)の手形は直接被控訴人宛に振り出し交付された。)、被控訴人通宏は、右(2)の手形振出交付当時右(1)、(3)の手形が割引に用いられたことは知らなかったこと、訴外会社は昭和四八年の石油ショック以来可成り設備投資をし、そのため運転資金が圧迫されて経営が苦しくなり、また三東も経営状態が悪く、いずれも右各手形振出当時すでにその決済資金を調達する能力はなく、訴外会社は昭和五〇年五月、三東は同年一月いずれも倒産するに至り、控訴人は、訴外会社及び三東から右いずれの手形についてもその支払を受けることができず、その主張の右(1)、(2)の手形額面合計五〇〇万円相当の損害を被ったこと、昭和五一年七月小松建設工業は控訴人に対し、控訴人が川上から担保として譲り受けた同会社に対する前記債権の支払をなし、控訴人の三東に対する前記貸金債権は弁済により消滅したこと、以上の事実が認められ、≪証拠≫中右認定にそわない部分は前顕証拠に対比し措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、訴外会社では右(1)ないし(3)の手形の振出当時これらを振り出してもその満期に決済することは極めて困難な状況下にあり、訴外会社の業務執行の一切をその代表者である被控訴人千秋から委されていた被控訴人通宏としては、当時満期に右手形の決済ができないことを予見しえたものというべく、被控訴人通宏には右手形振出につき任務懈怠があったものというべきである。しかし、同被控訴人は、稲田が、三東の控訴人に対する五〇〇万円の借用金債務の担保に供するため手形を貸してほしい、右債務については別個稲田の小松建設工業に対する債権を控訴人に担保に差し入れてあり、必ずそれは支払われるから訴外会社に迷惑はかけないというのでこれを信じて右(1)、(3)の手形を振り出し、のち(3)の手形の書換手形として(2)の手形を振り出したものであるところ、三東は経営状態が悪く倒産寸前ではあったが、控訴人に対する右借用金債務については控訴人が譲り受けた川上の小松建設工業に対する債権によって担保され、同社は上場会社で支払能力がありその弁済は充分可能であって、被控訴人通宏は、三東の右借用金債務は稲田が弁済し、訴外会社において終局的に右債務を支払わされることはないと考えていたものであり(現に、前述のとおりその後小松建設工業の支払により右借用金債務は弁済により消滅した。)、そして、被控訴人通宏が右(1)、(3)の手形振出当時三東において右手形を割引に利用することを、また右(2)の手形振出当時右(1)、(3)の手形が割り引かれていたことを知りうるような状況下にあったことを認めるに足りる証拠はないのであって、以上のような事情のもとでは、被控訴人通宏には、その前記任務懈怠行為につき悪意又は重大な過失があったものということはできず、同被控訴人が責任を負わない以上、訴外会社の業務ひいて右各手形振出に関与しなかった被控訴人千秋も責任を負ういわれはない。したがって、その余の点につき判断するまでもなく控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は理由がなく、失当として棄却を免れない。

(小林 鈴木 河本)

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